歌の後ろで鳴っているギターに耳を澄ますと、コードを「ジャーン」と鳴らしているのではなく、きらきらした粒が空間に散らばっているように聴こえる——L’Arc〜en〜Cielの楽曲でそんな体験をした方は多いはずです。そのギターを弾いているのがkenです。
ギタリスト名鑑の第10回はken。現役プロ講師の視点で「なぜkenのギターは景色が見えるのか」「その考え方を普段の練習にどう落とし込むか」を分解していきます。キーワードは開放弦・残響・一期一会。速弾きとは別の軸で「メロディアスなギター」を目指す方に、いちばん参考になるギタリストのひとりです。
プロフィール|建築学科からL’Arc〜en〜Cielのメインコンポーザーへ
kenは1968年11月28日生まれ、滋賀県米原市の出身。中学生の頃、姉が弾かずに置いていたフォークギターを触り始めたのが出発点でした。コード譜通りに弾けなかったため、開放弦を混ぜてEmをEm7に、FをFmaj7に崩して弾き、その響きの美しさに惹かれたと本人が振り返っています。後のプレイスタイルの原点が、すでにこの時点にあるのが面白いところです(出典:Wikipedia「ken」)。
名古屋工業大学で建築を学んでいた1992年、幼なじみのtetsuyaから誘いを受けてL’Arc〜en〜Cielに加入。就職活動中だったものの、音楽の道を選びました。以降はギタリストであると同時にバンドで最も多くの曲を書くメインコンポーザーとして、「花葬」「NEO UNIVERSE」「winter fall」「forbidden lover」「叙情詩」など50曲を超える楽曲を作曲しています。
2002年には3ピースバンドSONS OF ALL PUSSYSを結成し、2006年からはKen名義のソロ活動もスタート。ソロではボーカルも務め、1970〜80年代のハードロックを思わせるギタープレイを聴かせています。2017年に『ギター・マガジン』誌が音楽関係者の投票で選んだ「日本の偉大なギタリストTOP100」では36位に選ばれました。
奏法・音作りの特徴
① 開放弦を鳴らし続けるアルペジオ
kenのギターを語るうえで外せないのが、開放弦を交えたアルペジオです。押さえる指を動かしても、1弦や2弦などの開放弦はずっと鳴らしたまま。動く音と動かない音がぶつかり合って、普通のコードフォームでは出ないadd9やsus系の澄んだ響きが生まれます。
影響源として本人がよく名前を挙げるのが、ザ・キュアーやザ・ザ時代のジョニー・マー。「キャンバスに色を塗るように」アルペジオやアコギの音でテクスチャーを重ねていく発想です。弾き方の基本はアルペジオの弾き方の基本、響きの理屈はsus4とadd9コード・テンションコードの記事で解説しています。
② ディレイで描く「浮遊感」
TUBEの春畑道哉さんが「ディレイの研究がハンパない」と評したように、kenの音作りの核は空間系、とくにディレイです。1音を弾いたら、その残響が消える前に次の音を置く。ディレイを「エコーをかける飾り」ではなく、フレーズの一部として演奏しているのがポイントです。
近年のライブでは、歪み用とクリーン用にアンプを2台用意し、プレキシ系のアンプをクランチ程度に歪ませてエフェクターで押し上げるのが基本とされています(出典:同上)。※使用機材は時期によって異なります。設定の考え方はディレイの使い方、歪みの量はオーバードライブの使い方を参考にしてください。
③ 1番と2番で同じことを弾かない、即興的なフレーズ
長年L’Arc〜en〜Cielの共同プロデューサーを務めた岡野ハジメさんは、kenを「一回弾いたら二度と同じことは弾けない、一期一会を大事にするロック・ギタリスト」と表現しています。実際にコピーすると、1サビ・2サビ・3サビでバッキングのフレーズがそれぞれ違うことに気づくはずです。
一方で作曲者としてのkenは緻密で、ストリングスなどが重なった完成形を見越して「1音だけ」を置くこともあるといいます。即興性と設計図の両方を持っている——これがkenのギターが自由なのに散らからない理由です。
④ 歌の裏で鳴る「裏メロ」としてのギター
「HONEY」について、作曲者のhydeはkenの裏メロがはまったからいい曲になったと語っています。kenのバッキングはコードを埋めるだけでなく、歌と会話するもうひとつのメロディになっていることが多い。そのためには、コードを「形」ではなく「どの音を一番上に置くか」で考える必要があります。考え方はボイシングの選び方で詳しく扱っています。
⑤ 独特のタイム感
ドラムのyukihiroは、kenの書く速い8ビートの捉え方を「面白い」「いつも難しい」と語っています。kenはレゲエやボブ・マーリー、ポリスから「リズム感を感じさせるためのヨレ方」を学んだと話しており、きっちりした拍の上で、あえて少し前や後ろに置く感覚を持っています。これは正確なリズムが身についていてこそ出せる崩し方です。土台作りにはBPMとメトロノームの使い方をどうぞ。
聴くべき作品
- L’Arc〜en〜Ciel『Tierra』(1994)|メジャーデビュー期の作品。ニューウェイヴ由来のアルペジオとテクスチャー重視のギターが堪能できます。
- L’Arc〜en〜Ciel『True』(1996)|ポップなメロディに振り切った1枚。歌を支えながら耳に残るギターの置き方が学べます。
- L’Arc〜en〜Ciel『HEART』(1998)|ギター・マガジン誌の名盤企画でも挙げられた作品。開放弦のアルペジオと、景色が浮かぶソロの宝庫です。
- L’Arc〜en〜Ciel『REAL』(2000)|オルタナティヴ寄りのザクザクした質感が増えた時期。同じ人とは思えない音色の幅を確認できます。
- L’Arc〜en〜Ciel『AWAKE』(2005)|同じフレーズを左右で重ねる「ダブル」を取り入れた作品。音の壁の作り方の変化が分かります。
※作品の発売形態や配信状況は変わることがあります。最新情報はL’Arc〜en〜Ciel 公式サイトでご確認ください。
kenに学ぶ練習ポイント3つ
① 「開放弦を残して形だけ動かす」アルペジオ
キーEで、1弦・2弦(と6弦)の開放を鳴らしたまま、4弦と3弦で押さえる2音のフォームを2フレットずつ上下に平行移動させ、1音ずつ分散して弾いてみましょう。押さえる場所が変わっても開放弦が共通音として残り、それだけで「きらきらした」響きになります。きれいに聴こえる位置と、ぶつかって濁る位置を耳で判断するのが練習の本体です。
② ディレイの残響に「次の1音」を置く
ディレイタイムを曲のテンポに合わせ、2拍に1音だけ弾きます。弾いた音の繰り返しが聴こえている間に、次の音をどこに置けば気持ちいいかを探す練習です。音数を増やしたくなったら我慢して、残響も含めて1つのフレーズと考えてください。ディレイがなければ、ルーパーや録音で代用してもOKです。
③ 同じ4小節に「3つの違うバッキング」をつける
好きな曲のコード進行4小節に対し、①ストローク ②アルペジオ ③単音の裏メロの3パターンを用意し、1番・2番・3番で使い分けます。kenのように毎回違うことを弾くには、即興の前に引き出しを複数持っておくことが必要。これを繰り返すと、同じコード進行でも曲が進むごとに景色を変えられるようになります。
まとめ
kenから学べる最大のことは、「何を弾くか」と同じくらい「どう響かせるか」が大事だということです。開放弦を鳴らし続けるアルペジオ、ディレイも含めたフレーズ作り、毎回違うことを弾く即興性、歌と会話する裏メロ、独特のタイム感——どれも指の速さではなく、耳と発想で差がつく部分です。
コードが一通り押さえられるようになったら、次は「同じコードでも違う響きにできないか」を探してみてください。開放弦をひとつ残すだけで、いつもの進行が驚くほど違って聴こえるはずです。
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「アルペジオが単調になる」「エフェクターをかけてもそれっぽくならない」——こうした悩みは、押さえる形と音の置き方を少し変えるだけで解けることが多いです。ひとりで悩む前に、気軽にご相談ください。

