90年代の日本のロックギターを語るとき、hide(X JAPAN)の名前を外すことはできません。派手なルックスとステージングが先に語られがちですが、実際に音を追いかけていくと、そこにあるのは非常に緻密に設計されたリフとリズムギターです。
ギタリスト名鑑の第4回はhide。ヒット曲の紹介ではなく、現役プロ講師の視点で「なぜあのリフは一度で覚えられるのか」「その考え方を生徒さんの練習にどう落とし込むか」を分解していきます。速弾き系のギタリストに見えて、実は初心者〜中級者が真似しやすい要素が非常に多いのがhideです。
プロフィール|「聴かせる」と「見せる」を両立させたギタリスト
hide(本名・松本秀人)は1964年12月13日、神奈川県横須賀市の生まれ。地元でバンド活動を続けたのち、1987年にX(のちのX JAPAN)にギタリストとして加入しました(出典:Wikipedia「hide」)。
バンドと並行してソロ活動も開始し、1993年8月5日にシングル「EYES LOVE YOU」「50%&50%」を同時リリースしてソロデビュー。1998年1月にはhide with Spread Beaver名義で「ROCKET DIVE」を発表しています。そして1998年5月2日に33歳で逝去。活動期間そのものは決して長くありませんが、その後のビジュアル系・ラウド系のギターサウンドに与えた影響は今も残っています。
経歴の読みどころは、「バンドのリードギタリスト」と「ソロアーティスト」を同時にやっていたという点です。X JAPANではPATAとのツインギターの中で自分の役割を組み立て、ソロではギターだけでなく曲全体の設計をした——この「全体を見る耳」が、彼のフレーズの分かりやすさを支えています。
奏法・音作りの特徴
① リフの主役は「左手」ではなく「右手のミュート」
hideのリフをコピーすると、多くの人が「押さえる場所は合っているのに、あの感じにならない」という壁にぶつかります。原因のほとんどは右手のブリッジミュートの深さです。
彼のリフは、低音弦をズクズクと刻む区間と、開放的に鳴らす区間のコントラストで輪郭を作っています。ミュートが浅いと全部が同じ音量で並んでしまい、リフの「形」が消えてしまう。逆に深すぎると音程感が失われます。手刀をブリッジに置く位置を数ミリ単位で動かして、音程は分かるが響きは短いポイントを探すのが最初の課題です。詳しくはミュートの種類と使い分けで解説しています。
② 一度で覚えられるリフ=音数を絞り、リズムで差をつける
「ピンク スパイダー」「ROCKET DIVE」「TELL ME」——hideの代表的なリフは、音の種類そのものは驚くほど少ないものが多いです。パワーコードと単音の組み合わせで、使っている音は数個。それでも一度聴けば口ずさめるのは、音の高さではなくリズムの置き方で個性を出しているからです。
これはレッスンでもよくお伝えするのですが、「かっこいいリフを作りたい/覚えたい」なら、まず音を減らしてリズムを疑うほうが近道です。手癖で音を足すと、輪郭がぼやけて逆に印象に残らなくなります。パワーコードの基本形はパワーコードとは|押さえ方とコツにまとめてあります。
③ サステイナーによる「切れない音」の設計
音作り面で象徴的なのが、フェルナンデスのサステイナー(フロント側に搭載し、弦を電磁的に振動させ続けて音を伸ばす機構)の使い方です。hideの代表的な使用ギターとして知られる「Psyche」「Lemon Drop」「Yellow Heart」といったMG系モデルのうち、後期の個体にはこのサステイナーが搭載されていたとされています(出典:イシバシ楽器 GuitarQuest)。リア側にはDiMarzio Super DistortionやEMGなど出力の高いピックアップが組み合わされていたと紹介されることが多い機材です。※機材の詳細な仕様は時期や個体によって異なります。
ここで大事なのは「サステイナーを買えば同じ音になる」ではありません。ロングトーンが伸び続ける前提でフレーズを書いているという発想のほうです。だからこそサビ裏の1音が長く残り、歌の邪魔をせずに空間が埋まる。「伸ばす音」と「切る音」を最初から決めておく——これは機材がなくても今日から真似できる考え方です。
④ 歪みは「深さ」より「輪郭」で選ぶ
hideのギターは、耳では強烈に歪んで聴こえるのに、バンドの中では埋もれません。これは歪みを増やしているのではなく、ピッキングのアタックが残る量で止めているからです。歪ませすぎると刻みのニュアンスが潰れ、あのリズムの気持ちよさが消えます。
自宅で近づけるなら、まずゲインを「今の設定から2割下げる」ところから試してください。物足りなく感じたら、歪みではなく中域(MIDDLE)を上げる。歪みの種類による違いはディストーションとオーバードライブの違い、つまみの考え方はアンプのEQの使い方が参考になります。
⑤ ツインギターの「棲み分け」がうまい
X JAPANでのhideは、PATAとのツインギターです。ここで彼が徹底しているのが「2本が同じことをしない」という原則。片方が刻んでいるときはもう片方が伸ばす、片方が低音側にいるときはもう片方が高音側に回る。結果として、2本なのに音が濁らず、厚みだけが増します。
バンドでギター2本の方は、ぜひ一度この視点で自分たちの演奏を録音してみてください。「なんとなく音圧が足りない」原因の大半は、音量ではなく2本の役割がかぶっていることです。
聴くべき作品
- X JAPAN『BLUE BLOOD』(1989)|hideとPATAのツインギターの設計が最も分かりやすい1枚。スピードと様式美の中でのギターの役割分担を確認できます。
- X JAPAN『Jealousy』(1991)|アンサンブルが緻密になった時期。リフとバッキングの書き分けが聴きどころです。
- hide『HIDE YOUR FACE』(1994)|ソロ第1作。バンドとは違う、曲全体を設計する側のhideが見えます。
- hide『PSYENCE』(1996)|音色の実験が最も濃い1枚。エフェクトを「効果」ではなく「楽器」として使う発想が学べます。
- hide with Spread Beaver『Ja,Zoo』(1998)|リフの輪郭とポップさが両立した後期の代表作。
hideに学ぶ練習ポイント3つ
① 8分の刻みを「ミュート深/浅」だけで弾き分ける
6弦の開放かパワーコード1つで構いません。BPM90前後で8分を刻みながら、2小節ごとにミュートを深く/浅く切り替えます。左手は一切変えません。これだけで「同じ音でも表情が変わる」感覚が手に入ります。テンポの取り方はBPMとメトロノームの使い方を参考にしてください。
② 「3音だけ」で4小節のリフを作る
使う音を3つに限定し、4小節のリフを作ってみてください。音が足りないと感じたら、足すのは音ではなくリズムの変化(休符・シンコペーション)です。hideのリフが覚えやすい理由が、手を動かすと一気に腑に落ちます。
③ 自分の演奏を録って「伸ばす音」を数える
いつも弾いている曲を録音し、2拍以上伸ばしている音が何個あるかを数えてみてください。ゼロに近い人は、ほぼ確実に「詰め込みすぎ」の状態です。1曲の中に意図的なロングトーンを2〜3箇所作るだけで、演奏の印象は大きく変わります。
まとめ
hideから学べる最大のことは、「印象に残る演奏は、音の多さではなく設計で決まる」ということです。ミュートの深さ、音数を絞ったリフ、伸ばす音と切る音の配置、ツインギターの棲み分け——どれも派手なテクニックではなく、考え方の話です。
だからこそ、これらは初心者・中級者の段階から取り組めます。「速く弾けないから自分には無理」と感じている方こそ、hideのリフを右手の視点で聴き直してみてください。上達の方向がぐっとはっきりするはずです。
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