エレキギターの歴史は「ジミ・ヘンドリックス以前」と「以後」で語られることがあります。それほどまでに、彼の登場はギターという楽器の役割そのものを変えました。伴奏楽器でもソロ楽器でもなく、音そのもので情景を描く楽器へ——その扉を開けた人物です。
ギタリスト名鑑の第1回は、ジミ・ヘンドリックス。単なる伝説の紹介ではなく、現役プロ講師の視点で「彼の何が革新的だったのか」「そこから今の私たちが何を学べるのか」を具体的に解説します。
プロフィール|27年の生涯で残したもの
ジミ・ヘンドリックス(本名 James Marshall Hendrix)は1942年、米国シアトル生まれ。米軍除隊後、リトル・リチャードらのバックバンドでR&Bのサイドマンとして下積みを重ねました。この「歌の後ろで弾いていた時期」が、後の卓越したバッキングセンスを育てたと言われます。
1966年にロンドンへ渡り、ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスを結成。翌1967年のデビュー作『Are You Experienced』で一気に世界の注目を集めます。1970年9月18日、ロンドンで急逝。27歳でした。本格的な活動期間はわずか4年ほどという事実は、いま聴いても驚きに値します。
奏法・音作りの特徴|講師が注目する4つのポイント
1. 親指でローコードを押さえる「サムオーバー」
ヘンドリックスの代名詞的なフォームが、親指をネックの上から回して6弦を押さえるサムオーバーです。これにより余った指が自由になり、コードを押さえたまま同じフォームの中でメロディを混ぜられるようになります。手が大きかったことも有利に働きましたが、本質は「押さえ方の選択」ではなく「空いた指で何をするか」にあります。
2. コードとメロディを一体化させたバッキング
一般的なギターは「コードを弾く」か「単音を弾く」かに分かれがちですが、ヘンドリックスはその境界を消しました。コードフォームを土台に、装飾音・ハンマリング・プリングを差し込み、1本のギターで伴奏と歌メロの合いの手を同時に成立させる——このスタイルは現在のポップス/R&B系ギターの基礎になっています。
3. ブルースの語法に「明るい響き」を混ぜる
土台はブルース/ペンタトニックですが、そこにメジャー系の音や、いわゆるE7(#9)(通称ヘンドリックス・コード)のような緊張感のある響きを重ねます。E7(#9)は、メジャーとマイナーの両方の性格を同時に鳴らす音で、暗いだけでも明るいだけでもない独特の色合いを生みます。ブルースが「泥臭い」だけの音楽ではないことを、彼は音で証明しました。
4. 機材を「効果」ではなく「表現」として使う
右利き用のストラトキャスターを逆さに構え、弦を張り替えて弾いていたのは有名な話です。結果として各弦のテンションやピックアップの角度が通常と変わり、独特のトーンが生まれました。エフェクターについても、ファズ・ワウ・ロータリー系などを音を歪ませる道具ではなく、感情の起伏をつくる装置として扱っています。
ここは初心者の方にも大きなヒントになる部分です。「良い機材を買えば良い音が出る」のではなく、「その機材で何を表現したいか」が先にある——彼の音作りはその順番の大切さを教えてくれます。
聴くべきアルバム
- 『Are You Experienced』(1967)|デビュー作にして完成形。エレキギター表現の原点として、まず1枚目に。
- 『Axis: Bold as Love』(1967)|バッキングの美しさが際立つ作品。コードとメロディの一体化を学ぶならここ。
- 『Electric Ladyland』(1968)|スタジオを楽器として使った実験作。音像の広がりが圧巻です。
- 『Band of Gypsys』(1970)|ファンク/R&B寄りのリズム感が濃厚。カッティングの参考に。
ジミ・ヘンドリックスに学ぶ練習ポイント3つ
① コードを押さえたまま指を1本動かす
いきなりサムオーバーに挑戦する必要はありません。まずはDやAなどの押さえやすいコードを鳴らしたまま、小指や薬指で1音だけ加える/離す練習を。これだけで伴奏が一気に「歌い」始めます。
② ペンタトニック+チョーキングで「1音を伸ばす」
ヘンドリックスのソロは、速さより1音の伸ばし方・揺らし方で説得力を出しています。ペンタトニックスケールの中で、チョーキングとビブラートだけを使って8小節弾き切る練習は、初心者にも上級者にも効く基礎トレーニングです。
③ 音量とタッチで表情をつける
エフェクターを足す前に、ピッキングの強弱だけで大小をつける練習をしてみてください。彼のギターが表情豊かに聴こえる理由の大半は、実は機材ではなく右手にあります。
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