日本のロックギターを語るうえで、避けて通れない名前があります。B’zの松本孝弘。1988年のデビューから現在まで第一線を走り続け、日本の音楽シーンに「ギターリフで覚えられる曲」という文化を根づかせた人です。
ギタリスト名鑑の第2回は、その松本孝弘。ヒットメーカーとしての側面ではなく、現役プロ講師の視点で「彼のギターは何が上手いのか」「そこから生徒さんが持ち帰れるものは何か」を具体的に分解していきます。
プロフィール|セッションギタリストから国民的バンドへ
松本孝弘は1961年3月27日、大阪府豊中市生まれ。キャリアの出発点はスタジオ/セッション・ギタリストで、浜田麻里やTM NETWORKのレコーディング・コンサートに参加していました(出典:Wikipedia「松本孝弘」)。
この経歴は、彼のプレイを理解するうえでとても重要です。セッションの現場で求められるのは「自分の見せ場」ではなく「その曲に必要な音を、必要なだけ、確実に出すこと」。松本のギターに無駄弾きが少なく、どのフレーズも曲の構造にきっちりはまっているのは、この下積み時代に鍛えられた職業意識の表れだと私は見ています。
1988年9月21日、稲葉浩志とのユニットB’zとしてデビュー。以降はバンドと並行してソロ作品も継続的に発表し、2010年にラリー・カールトンと共演したアルバム『TAKE YOUR PICK』で、第53回グラミー賞 最優秀ポップ・インストゥルメンタル・アルバムを受賞しました。また1999年には、ギブソンのシグネチャー・アーティストに日本人として初めて選ばれています。
奏法・音作りの特徴|講師が注目する4つのポイント
1. 「歌えるリフ」を作る力
松本孝弘の最大の武器は、テクニックそのものよりリフの設計力です。イントロの数小節を聴いただけで曲名が分かる——そんな曲を何十曲も持っているギタリストは、世界的に見ても多くありません。
その秘密は、リフが「ペンタトニックの音使い」+「歌のように区切られたリズム」で組み立てられている点にあります。難しい音は使っていないのに耳に残るのは、フレーズに息継ぎ(休符)があるから。初心者がリフを作ると音を詰め込みがちですが、松本のリフは「鳴らさない部分」がきちんと設計されています。
2. チョーキングとビブラートの精度
ソロを聴いていて「上手い」と感じさせる決定的な要素が、音程の正確さです。松本のチョーキングは、狙った音にきっちり届いて、そこで止まる。そして止まった位置から、幅と速さの揃ったビブラートがかかります。
レッスンでも繰り返しお伝えしていますが、チョーキングは「上げる技術」ではなく「目的の音程で止める技術」です。ここが甘いと、どれだけ速く弾けても素人っぽく聴こえてしまいます。逆にここが決まっていれば、単純なフレーズでもプロの響きになります。松本のソロは、その手本として非常に分かりやすい教材です。
3. 中域を押し出したレスポールの音作り
使用ギターの中心はギブソンのレスポール系。ストラトキャスターやヤマハのモデルも使い分けていますが、いわゆる「松本サウンド」の芯にあるのはハムバッカーの太い中域です。
ここで注目したいのは、歪ませすぎていないこと。日本のロックギターは低音を厚くしがちですが、松本の音は中域がしっかり前に出ていて、コードの構成音が潰れずに聴き取れる状態を保っています。バンドの中でギターが埋もれないのは、音量ではなく帯域の取り方が上手いからです。
自宅練習でも応用できます。アンプのGAIN(歪み量)を上げる前に、MIDDLEを少し上げてみてください。それだけで、ピッキングのニュアンスが伝わる音に近づきます。
4. ブルースの語法を歌モノに接続する
松本のルーツはハードロックとブルースにあります。しかしB’zの楽曲では、それを日本語の歌が主役のポップスの中に自然に溶かし込んでいます。ソロも、単なる技術の披露ではなく「歌のもう一つのサビ」として機能する長さと展開で組まれている。
ソロ作品『Bluesman』(2020)を聴くと、その土台がはっきり分かります。バンドでの姿とソロでの姿を聴き比べると、「自分の好きな音楽」と「曲に必要な音楽」を切り分けられる職人性が見えてくるはずです。
聴くべきアルバム
- B’z『RUN』(1992)|6作目。バンドサウンドへ舵を切った時期の作品で、リフの骨格が分かりやすい1枚。
- B’z『LOOSE』(1995)|8作目。ギターワークの充実度が高く、松本孝弘入門としてまず薦めたい作品です。
- B’z『Brotherhood』(1999)|10作目。ロックバンドとしての音圧とアンサンブルを聴くならここ。
- 松本孝弘『Thousand Wave』(1988)|デビュー年に発表された初ソロ。インストで聴く彼のメロディ感覚。
- 松本孝弘『TAKE YOUR PICK』(2010)|ラリー・カールトンとの共演作。グラミー賞受賞作としても有名です。
- 松本孝弘『Bluesman』(2020)|ルーツであるブルースに正面から向き合った作品。
松本孝弘に学ぶ練習ポイント3つ
① チョーキングを「チューナーで」確認する
耳だけで判断せず、チューナーを見ながら1音チョーキング・半音チョーキングを止める練習をしてみてください。自分では届いているつもりで、実は少し足りていない——これは非常によくあるケースです。目で確認して、その感覚を指に覚えさせます。
② 4小節のリフを「休符入り」で作ってみる
ペンタトニックの音を5〜6個だけ使って、4小節のリフを作ってみましょう。ルールは1つ、各小節に必ず「弾かない拍」を入れること。この制約を課すだけで、フレーズが一気にリフらしくなります。ミュートで音を止める処理もセットで練習すると効果的です。
③ GAINを下げてMIDDLEを上げる
いつもの設定から歪みを2割減らし、中域を少し足してみてください。最初は物足りなく感じますが、ピッキングの雑さが露わになる=上達のポイントが見える状態になります。松本サウンドの気持ちよさは、この「ごまかしの効かない音で弾ききる」ところから来ています。
まとめ
松本孝弘から学べる最大のことは、「速く弾く技術」より「必要な音を確実に出す技術」が人の心に残るという事実です。セッションギタリスト時代に培われた職人性が、結果として何十年も愛されるリフを生み続けています。
チョーキングの精度、休符の設計、帯域の取り方。どれも初心者の段階から意識できることばかりです。憧れのフレーズを「なんとなく似ている」で終わらせず、なぜそう聴こえるのかを分解して自分の指に落とし込む——ここから上達は加速します。
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