「ギターの神様」と呼ばれた人は何人かいますが、その称号が最も長く付いて回っているのがエリック・クラプトンでしょう。60年代のブルースロックから、90年代のアコースティック、そして現在まで——半世紀以上にわたって「弾きすぎないギター」で聴き手を掴み続けてきたギタリストです。

ギタリスト名鑑の第3回はエリック・クラプトン。ヒット曲の紹介ではなく、現役プロ講師の視点で「なぜあの少ない音数で上手く聴こえるのか」「そこから生徒さんが持ち帰れるものは何か」を分解していきます。実は、初心者・中級者が今日から真似できる要素が一番多いギタリストでもあります。

プロフィール|3つのバンドを渡り歩いた「スローハンド」

エリック・クラプトンは1945年3月30日、イングランド・サリー州リプリーの生まれ。10代でブルースに傾倒し、ヤードバーズ(1963〜1965)→ ジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズ(1965〜1966)→ クリーム(1966〜1968)→ ブラインド・フェイス(1969)→ デレク・アンド・ザ・ドミノス(1970〜1971)と、20代のうちに時代を代表するバンドを次々と渡り歩きました(出典:Wikipedia「エリック・クラプトン」)。

その後はソロとして『461 オーシャン・ブールヴァード』(1974)、『スローハンド』(1977)などを発表。1992年のアコースティック・ライブ作『アンプラグド』は、翌1993年の第35回グラミー賞で年間最優秀アルバム賞を含む6部門を受賞しました(出典:Wikipedia「Unplugged (Eric Clapton album)」)。ロックの殿堂にはヤードバーズ、クリーム、ソロの3回選出されています。

この経歴の読みどころは、「バンドを変えるたびに音数が減っていった」点です。クリーム時代の長尺ソロから、ソロ名義以降の歌に寄り添うギターへ。技術が落ちたわけではなく、「必要な音だけを残す」方向に進化した——ここがクラプトンを教材として見たときの面白さです。

奏法・音作りの特徴|講師が注目する4つのポイント

1. ビブラートで「歌わせる」

クラプトンのプレイを一言で表すならビブラートです。1音を伸ばしたときの揺れ方が非常に個性的で、幅が広く、揺れ始めるタイミングが遅い。音を出した瞬間はまっすぐで、伸ばしている途中から歌のように揺れ出します。

初心者のビブラートは、音を出した直後から細かく震わせてしまいがちです。しかし「まず正しい音程で鳴らす → 一拍おいてから揺らす」という順番にするだけで、同じフレーズが一気にプロっぽく聴こえます。速いフレーズを増やすより、この1音の処理を直すほうが効果は大きいです。

2. 「ウーマン・トーン」に見る音作りの引き算

クリーム期の代名詞が、ギター側のトーンを絞って高音を落としたウーマン・トーンと呼ばれる音です。歪んでいるのに耳に痛くなく、それでいてバンドの中で埋もれない。ポイントは、音量やゲインではなく「削る」ことで存在感を作っているという発想です。

自宅でも試せます。いつもの歪みのまま、ギター本体のトーンノブを半分あたりまで絞ってみてください。最初はこもって聴こえますが、バンドやカラオケ音源に混ぜるとむしろ輪郭がはっきりすることが多いはずです。音作りは足し算だけではない、という良い実例です。詳しくはディストーションとオーバードライブの違いもあわせてどうぞ。

3. ストラトのクリーンと、指で弾くニュアンス

70年代以降のメインは、3本のストラトキャスターの良い部品を組み合わせて作られた愛器「ブラッキー」(1970年にナッシュビルで購入した個体がもと。2004年にチャリティー・オークションへ出品されています/出典:Wikipedia「Blackie (guitar)」)。ここから音は一気に軽くなり、クリーン〜軽いクランチで“指のタッチ”を聴かせるスタイルに移行します。

ピックを使わず指で弾く場面が多いのも特徴で、これが独特の丸いアタックを生んでいます。歪みで押し切らない分、弦に触れる強さ・角度がそのまま音色差になる。上達を測る物差しとして、非常に分かりやすい弾き方です。

4. ブルースの語法を「歌モノ」に接続する

クラプトンの土台は一貫してブルースです。12小節の進行、跳ねたリズム、マイナーペンタトニック——素材そのものは、実はとてもシンプル。それをポップスやバラードの中に自然に置くことで、あの唯一無二のフレーズが成立しています。

裏を返せば、ブルースの基本語彙を身につければ、クラプトン的な表現の入口には立てるということです。ペンタトニックスケールシャッフル/スウィングのリズム、この2つが最初の関門です。

聴くべきアルバム

  • Cream『Disraeli Gears』(1967)|クリーム期の代表作。ウーマン・トーンと、太いブルースロックのリフを聴くならここから。
  • Derek and the Dominos『Layla and Other Assorted Love Songs』(1970)|デュアン・オールマンとの2本のギターの絡みが圧巻。ロックギター史の重要作です。
  • Eric Clapton『461 Ocean Boulevard』(1974)|ソロ転向後の名盤。音数が減り「歌に寄り添うギター」へ変化した瞬間が分かります。
  • Eric Clapton『Slowhand』(1977)|クリーンなストラトの美しさと、フレーズの品の良さを味わう1枚。
  • Eric Clapton『Unplugged』(1992)|アコースティック編成の教科書。グラミー6部門受賞作で、アコギ好きなら必聴です。
  • Eric Clapton『From the Cradle』(1994)|ブルースのカバー集。彼のルーツを一番ストレートに確認できます。

クラプトンに学ぶ練習ポイント3つ

① 1音を10秒伸ばして、後半だけ揺らす

好きな音を1つ選び、前半5秒はまっすぐ、後半5秒だけビブラートをかけてみてください。揺れの幅と速さを一定に保つのが目標です。これができるようになると、フレーズの終わりの音が急に「決まる」ようになります。チョーキングの練習とセットで行うと効率的です。

② 4小節を「5音以内」で弾ききる

ペンタトニック1ポジションだけを使い、4小節のアドリブを音数5個以内という縛りで弾いてみましょう。手が余るほど時間がありますが、その余白をどう使うかがクラプトン的な発想です。詳しい進め方はギターアドリブの基本で解説しています。

③ ピックを置いて、指で同じフレーズを弾く

いつも弾いているフレーズを、そのまま指で弾いてみてください。音量は落ちますが、アタックの角が取れて、音の減衰が滑らかになるのが分かるはずです。ピックに戻したとき、弾く強さのコントロールが明らかに良くなっています。

まとめ

エリック・クラプトンから学べる最大のことは、「上手さ=音数の多さ」ではないという事実です。彼が半世紀以上第一線にいるのは、1音の質——音程、ビブラート、タッチ、そして鳴らさない時間の使い方——を磨き続けてきたからです。

そしてこれらは全て、初心者の段階から取り組める内容でもあります。速弾きに憧れて手が止まってしまった方こそ、一度クラプトンの1音に耳を傾けてみてください。上達の方向が、ぐっとはっきりするはずです。

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