シルクハットにサングラス、低く構えたレスポール。スラッシュは、見た目だけでなく音でも「ロックギターの王道」を体現し続けているギタリストです。速弾き全盛の1980年代後半に、ブルースに根ざした“歌えるソロ”で世界中のギターキッズを夢中にさせました。

ギタリスト名鑑の第9回はスラッシュ。現役プロ講師の視点で見ると、彼のプレイは「ペンタトニックだけでここまで歌える」ことを教えてくれる最高の教材です。奏法と音作りの特徴、そして初心者・中級者が今日から取り入れられる練習ポイントを分解していきます。

プロフィール|ロンドン生まれ、ロサンゼルス育ち

スラッシュ(本名ソール・ハドソン)は1965年7月23日、イギリス・ロンドン生まれ。幼少期に家族とアメリカ・ロサンゼルスへ移り住みました。ギターを始めたきっかけはローリング・ストーンズの楽曲に衝撃を受けたことだと紹介されています(出典:Marshall公式「Guitar Heroes: Slash」、Wikipedia「スラッシュ (ミュージシャン)」)。

1985年にガンズ・アンド・ローゼズへ加入し、1987年のデビューアルバム『Appetite for Destruction』が世界的な大ヒットに。1991年には『Use Your Illusion I』『II』を発表しました。1996年にバンドを離れたあとは、スラッシュズ・スネイクピットやヴェルヴェット・リヴォルヴァーなどで活動し、2010年に初のソロアルバム『Slash』を発表。以降はマイルス・ケネディ&ザ・コンスピレーターズとの作品を重ねています。そして2016年にガンズ・アンド・ローゼズへ復帰し、現在も第一線で演奏を続けています(出典:Marshall公式「Guitar Heroes: Slash」、Wikipedia「スラッシュ (ミュージシャン)」)。

経歴で注目したいのは、バンドを離れていた時期も一貫して「レスポールとマーシャルで、歌うように弾く」というスタイルを変えなかった点です。流行に合わせて音を変えるのではなく、自分の声を磨き続ける。その姿勢が、何十年たっても一聴して分かる個性につながっています。

奏法・音作りの特徴

① 口ずさめる「歌うソロ」

スラッシュのソロは、聴き終わったあとにメロディを口ずさめます。これはフレーズに「間」と「起承転結」があるからです。静かに始まり、音域を少しずつ上げ、最後に一番高い音で盛り上げる。音数を詰め込むのではなく、1音を長く伸ばして聴かせる場面を必ず作っています。

レッスンでもソロ作りの相談は多いのですが、まず意識してほしいのは「弾かない時間」です。アドリブの組み立て方はギターアドリブの基本でまとめています。

② ペンタトニック+「もう1音」のブルース感

フレーズの土台はマイナー・ペンタトニック。そこにブルーノートや、スケールの外の音を経過的に混ぜることで、あの少し粘り気のある色気が生まれます。特別なスケールを大量に覚えているわけではなく、誰もが最初に習う形を、歌い回しで個性に変えているのがポイントです。

基本の形はペンタトニックスケールとは、足す1音の考え方はブルーノートとブルーススケールで確認できます。

③ 大きくゆったりしたビブラートとチョーキング

スラッシュの音を「スラッシュらしく」している最大の要素が、振れ幅が大きく、速すぎないビブラートです。チョーキングで音程を上げきったあと、そこからさらに揺らす。音程が正確に届いているからこそ、揺らしても音痴に聴こえません。

チョーキングは「指の力」ではなく手首の回転で上げるのがコツ。フォームはチョーキングの種類とコツを参考にしてください。

④ コードを分解した「単音リフ」

ガンズ・アンド・ローゼズの代表曲「Sweet Child O’ Mine」のイントロは、コードの構成音を1音ずつ、弦を飛び越えながら弾く単音のリフです。パワーコードで押し切るのではなく、メロディとして成立するリフを作れるのもスラッシュの強み。弦を飛ばすピッキング(弦飛び)の正確さが求められるので、中級者への良い課題曲になります。

⑤ レスポール×マーシャルの「太くて甘い」音

音作りは王道そのもの。ハムバッカーを搭載したレスポール・タイプのギターを、マーシャルのアンプに直結に近い形でつなぐスタイルです。『Appetite for Destruction』のレコーディングでは、クリス・デリッグ氏が製作した1959年型レスポールのレプリカがメインで使われたと紹介されています(出典:Wikipedia「スラッシュ (ミュージシャン)」)。アンプはマーシャルを長年愛用し、同社からは複数のシグネチャーモデルも登場しています(出典:Marshall公式「Guitar Heroes: Slash」)。※使用機材は時期によって異なり、情報源により記述が異なる場合があります。

ソロでよく聴ける、鼻にかかったような甘いリードトーンは、フロント(ネック側)ピックアップを使い、歪みを上げすぎないことで近づけます。切り替えの考え方はピックアップセレクターの使い方、アンプ側の調整はアンプのEQの使い方が参考になります。ここぞという場面でワウペダルを踏み、声のような抑揚をつけるのも彼の定番です。

聴くべきアルバム

  • Guns N’ Roses『Appetite for Destruction』(1987)|リフ、ソロ、音色のすべてが詰まったデビュー作。スラッシュを知るならまずこの1枚。
  • Guns N’ Roses『Use Your Illusion I』『II』(1991)|バラードから長尺曲まで幅が広がった2作。メロディアスなロングソロの組み立てを学べます。
  • Slash『Slash』(2010)|多彩なボーカリストを迎えた初のソロ作。歌に寄り添うバッキングの引き出しが分かります。
  • Slash feat. Myles Kennedy and The Conspirators『Apocalyptic Love』(2012)|固定メンバーでのバンドサウンド。現代的な録音で王道のトーンを確認できます。
  • 同『4』(2022)|コンスピレーターズ名義の近年作。変わらないスタイルの「今」が聴けます。

スラッシュに学ぶ練習ポイント3つ

① 「3音だけ」でソロを作る

ペンタトニックの中から3つの音だけを選び、バッキングに合わせて4小節弾いてみてください。使える音が少ないと、自然とリズム、音の長さ、強弱で変化をつけるしかなくなります。これが「歌うソロ」の入り口です。

② チョーキングは「目標の音」を先に鳴らす

チョーキングの前に、上げたい先の音(2フレット上)を普通に押さえて鳴らし、その高さを耳に入れてからチョーキングで同じ高さまで上げる。音程が合ってからビブラート、の順番を守るだけで、ソロの説得力が大きく変わります。

③ 単音リフはゆっくり、オルタネイトで

弦飛びを含む単音リフは、速さよりもダウン・アップの順番を崩さないことが大切です。まずはBPM60〜70で、8分音符が均等に並ぶまで繰り返しましょう。テンポの上げ方はBPMとメトロノーム練習の基本で解説しています。

まとめ

スラッシュは、特別な理論や超絶技巧ではなく、ペンタトニック、チョーキング、ビブラートという基本の3点セットを極限まで磨いたギタリストです。だからこそ、ギターを始めて間もない方にとっても、目標にしやすいお手本になります。

まずは好きなソロの最初の4小節だけをコピーし、音の伸ばし方と揺らし方までそっくり真似してみてください。同じ音を弾いているのに「歌って聴こえる」瞬間が、きっと訪れます。

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