1978年、1本のギターソロがロックギターの常識を塗り替えました。右手の指で指板を叩き、ピアノのような速さで音を連ねる——エディ・ヴァン・ヘイレンが世に広めた「ライトハンド奏法(タッピング)」です。以後のロックギタリストで、彼の影響をまったく受けていない人を探すほうが難しいでしょう。

ギタリスト名鑑の第7回はエディ・ヴァン・ヘイレン。派手な速弾きの人、というイメージが先行しがちですが、現役プロ講師の視点で見ると、彼の本当のすごさは「リズム」と「音作りの自作精神」にあります。タッピングの仕組みから、初心者・中級者が今日から取り入れられる練習ポイントまで分解していきます。

プロフィール|オランダ生まれ、カリフォルニア育ちのギターヒーロー

エディ・ヴァン・ヘイレン(本名エドワード・ヴァン・ヘイレン)は1955年1月26日、オランダ生まれ。1960年代に家族でアメリカ・カリフォルニア州パサデナへ移住し、兄のアレックス(ドラム)とともにバンド活動を始めました。ヴァン・ヘイレンの結成は1972年とされています(出典:uDiscoverMusic「エディ・ヴァン・ヘイレンが癌のため65歳で逝去。その功績を辿る」、Wikipedia「エドワード・ヴァン・ヘイレン」)。

1978年2月にデビューアルバム『Van Halen』を発表。2曲目に収録されたインストゥルメンタル「Eruption」は、タッピングを広く知らしめた曲として今も語り継がれています(出典:Wikipedia「Eruption (instrumental)」)。その後もヒットを重ね、1984年には「Jump」が全米No.1に。マイケル・ジャクソン「Beat It」へのギターソロ参加でも知られ、2007年にロックの殿堂入り。2020年10月6日、65歳で逝去しました(出典:uDiscoverMusic「エディ・ヴァン・ヘイレンが癌のため65歳で逝去。その功績を辿る」)。

経歴で注目したいのは、幼少期はピアノを学んでいたとよく語られる点です。鍵盤のように指板を「叩いて」音を出す発想は、ギターの外から来たものだった——と考えると、タッピングがなぜあれほど自然に音楽として響くのかが腑に落ちます。

奏法・音作りの特徴

① タッピングは「右手のハンマリング」にすぎない

タッピングと聞くと特殊な技に感じますが、仕組みは驚くほどシンプルです。右手の指(エディは主に人差し指や中指)で弦をフレットに叩きつける=ハンマリング・オン、そこから指を弦に引っかけるように離す=プリング・オフ。これに左手のハンマリング・プリングを組み合わせると、ピッキングなしで3〜4音を高速で回せます。

つまり、タッピングの土台は左手のハンマリング・プリングがきれいに鳴るかどうか。ここが弱いまま右手だけ真似しても、音量がそろわず「パタパタ」した音になります。まずはハンマリング・オンとプルオフのコツで基礎を固めるのが一番の近道です。

② 速さの正体は「リズムの正確さ」

エディのソロは速いのに、なぜかノリがいい。これは音符をリズムの枠にきっちり収めているからです。3連符や6連符のタッピングフレーズも、拍の頭がどこにあるかを見失っていません。リズムギターの切れ味も抜群で、ソロと同じくらいバッキングが評価されているギタリストでもあります。

レッスンでも「速く弾きたい」という相談は多いのですが、ほぼ例外なく先に直すべきはテンポではなくリズムです。メトロノームを使った練習法はBPMとメトロノーム練習の基本でまとめています。

③ アーミングとハーモニクスで「効果音」を作る

エディのプレイには、アームで音程を大きく揺らしたり、ハーモニクスを鳴らしてからアームでうねらせたりする“効果音的”なフレーズが頻繁に出てきます。のちにフロイドローズ系のロック式トレモロを使ったことでも知られ、激しいアーミングでもチューニングが狂いにくい環境を整えていました(出典:エレキギター博士「エディ・ヴァン・ヘイレンの使用機材と演奏技法」)。

アーム付きのギターを持っている方は、ブリッジの仕組みを知っておくとトラブルが減ります。詳しくはギターのブリッジの種類と特徴をご覧ください。音程を揺らす表現の基本としてはチョーキングのコツも合わせて練習すると効果的です。

④ 「フランケンシュタイン」——欲しい音がなければ作る

エディの象徴といえば、赤・白・黒のストライプが入った自作ギター、通称「フランケンシュタイン(フランケンストラト)」。ストラトキャスター型のボディに、ハムバッカーを1基だけ載せたという大胆な構成で、既製品にない「ストラトの弾きやすさ×ハムバッカーの太さ」を自分で組み上げたと紹介されています(出典:エレキギター博士「エディ・ヴァン・ヘイレンの使用機材と演奏技法」)。※仕様は時期によって何度も変更されており、情報源により記述が異なる場合があります。

ここで学びたいのは、パーツの型番ではなく「音のイメージが先にあり、道具はそれに合わせて作る」という姿勢です。後年は自らの名を冠したアンプやギターの開発にも深く関わり、その設計思想は現在のハイゲイン・アンプに大きな影響を残しました。

⑤ ブラウン・サウンドは「歪ませすぎない」歪み

エディ自身が「ブラウン・サウンド」と表現した音は、分厚いのに一音一音の粒が見えるのが特徴です。初期はマーシャルのアンプを使い、電圧を調整する機器を通すなどの工夫をしていたと伝えられています(出典:エレキギター博士「エディ・ヴァン・ヘイレンの使用機材と演奏技法」)。

自宅で近づけたいなら、ゲインを上げきらず、ピッキングの強弱で歪み量が変わるところを狙ってください。歪ませすぎるとタッピングの音量差は目立たなくなりますが、同時に表情も消えます。歪みの種類についてはディストーションとオーバードライブの違いが参考になります。

聴くべき作品

  • Van Halen『Van Halen』(1978)|「Eruption」収録のデビュー作。タッピングだけでなく、リズムギターの切れ味を味わうならまずこの1枚。
  • Van Halen『Van Halen II』(1979)|デビュー作の勢いそのままに、よりポップな曲も増えた作品。ソロとバッキングの行き来が学べます。
  • Van Halen『Women and Children First』(1980)|ヘヴィさが増した時期。リフの重心の置き方に注目。
  • Van Halen『Fair Warning』(1981)|ギターの攻撃性が最も濃い1枚とも評される作品。中級者以上に発見が多いです。
  • Van Halen『1984』(1984)|「Jump」などシンセサイザーも取り入れた代表作。ギター以外の楽器との役割分担が分かります。

エディ・ヴァン・ヘイレンに学ぶ練習ポイント3つ

① まずは「1弦だけ」の3音タッピング

左手人差し指で1弦5フレット、薬指で8フレットを押さえられる状態にし、右手の指で12フレットを叩く。右手12F→(プリングして)左手8F→(プリングして)左手5Fと3音を回すだけの練習です。最初はBPM60の3連符で、3つの音量がそろうことだけを目標にしてください。速さはそのあとで自然についてきます。

② 叩かない弦をミュートする

タッピングで意外につまずくのがノイズです。叩いた勢いで他の弦が鳴ってしまう。右手の手のひら側や左手の余った指で、使わない弦に軽く触れておく習慣をつけましょう。ミュートの考え方はミュートの種類と使い分けで詳しく解説しています。

③ ソロ練習と同じ時間、リズムギターを弾く

エディをコピーするとき、ついソロばかり練習しがちですが、彼の曲の大半の時間はリフとバッキングです。パワーコード主体のリフをメトロノームに合わせて弾き込み、「リズムで聴かせる」感覚を身につけてください。基本形はパワーコードとは|押さえ方とコツで確認できます。

まとめ

エディ・ヴァン・ヘイレンは、タッピングを広め、ロックギターの表現の幅を一気に押し広げたギタリストです。ただ、講師として強調したいのは、その土台にあったのが正確なリズム、左手の基礎、そして「欲しい音は自分で作る」という姿勢だったことです。

タッピングは、ハンマリング・プリングができれば初心者の方でも最初の1フレーズは弾けます。まずは1弦3音から。音量がそろった瞬間、エディがギターを「叩いて」いた理由がきっと体感できるはずです。

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