イントロの数秒で「あ、この人だ」と分かるギタリストは、そう多くありません。布袋寅泰はその代表格です。BOØWY、COMPLEX、ソロと舞台を変えながら、歯切れのいいカッティングと一度聴いたら忘れないリフで、日本のロックギターの「かっこよさ」の基準を作ってきました。

ギタリスト名鑑の第8回は布袋寅泰。代表曲の紹介ではなく、現役プロ講師の視点で「なぜ布袋のギターは音数が少なくても存在感があるのか」「その考え方を普段の練習にどう落とし込むか」を分解していきます。派手なイメージの裏にあるのは、実は音を「切る」技術とリズムの正確さ。初心者〜中級者がいちばん伸びしろを持っている部分です。

プロフィール|BOØWYからソロ、そして世界へ

布袋寅泰は1962年2月1日生まれ、群馬県高崎市の出身。T・レックスやデヴィッド・ボウイ、ロキシー・ミュージックといった英国ロックに強い影響を受けたことで知られています。上京後、氷室京介らとBOØWYを結成し、1982年3月にアルバム『MORAL』でレコードデビューしました(出典:Wikipedia「布袋寅泰」、音楽ナタリー「布袋寅泰のプロフィール」)。

BOØWYは人気の絶頂にあった1987年12月24日に解散を宣言し、翌1988年4月の東京ドーム公演「LAST GIGS」で活動を終えます。布袋は同じ1988年10月にアルバム『GUITARHYTHM』でソロデビュー。さらに吉川晃司とのユニットCOMPLEXでも活動しました(出典:ORICON NEWS「布袋寅泰のプロフィール」)。

その後も活動の場は広がり、1996年にはアトランタオリンピック閉会式で演奏。2003年には自作のインスト曲「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」がクエンティン・タランティーノ監督の映画『キル・ビル』で使用され、世界中で耳にされる1曲になりました。2012年からはロンドンに拠点を移し、2015年には海外レーベルからアルバム『STRANGERS』を発表しています。

経歴の読みどころは、バンドのギタリスト/ソロアーティスト/プロデューサー/インスト作曲家と立場が変わっても、ギターの「声」が一貫していること。誰と組んでも、歌があってもなくても、布袋のギターだと分かる。それは速弾きの技術ではなく、リズムと音の切り方という「弾き方の癖」がそのまま個性になっているからです。

奏法・音作りの特徴

① 「切る」ことで前に出る、鋭いカッティング

布袋のギターを象徴するのが、歯切れのいいカッティングです。コードを鳴らした直後に左手の力を抜いて音を止め、「ジャッ」「チャッ」と短く切る。鳴っている時間より鳴っていない時間のほうが長いので、歪みを深くしなくても音が前に飛んできます。

レッスンで「カッティングがベタッとして切れない」という相談を受けるとき、原因のほとんどは右手ではなく左手のミュートのタイミングです。押さえた指を弦から離すのではなく、弦に触れたまま力だけ抜くのがコツ。基本の考え方はミュートの種類と使い分けにまとめています。

② 8ビートの直進力と16ビートの跳ね感を行き来する右手

もうひとつの特徴は、ダウンピッキング中心のまっすぐな8ビートと、アップストロークを混ぜた16ビートのファンキーな刻みを、1曲の中で自在に切り替えることです。ニューウェーブ以降の英国ロックの硬質さと、ファンクのしなやかさが同居している、と言い換えてもいいでしょう。

ここで大事なのは、どちらのビートでも右手の振り幅とテンポが揺れないこと。8分で突き進むところは全部ダウンで音の粒をそろえ、16分で刻むところは空振りを含めて手を止めない。ストロークの土台はストロークパターン基本4種、テンポの管理はBPMとメトロノームの使い方を参考にしてください。

③ コードと単音を混ぜて作る「口ずさめるリフ」

布袋のリフは、難しいスケールを駆け上がるタイプではありません。コードの一部(2〜3本の弦)と、低音弦の単音フレーズを組み合わせて、ギター1本でリズムとメロディを同時に鳴らす作りになっています。だから一度聴けば口ずさめるし、バンド全体の中でも埋もれません。

弾くときのポイントは、鳴らしたくない弦を徹底的に消すこと。少ない弦だけを狙って強く弾くので、余った弦のミュートが甘いとすぐに音が濁ります。まずはパワーコードで「2本だけを鳴らし、残り4本は鳴らさない」感覚を固めるのが近道です。

④ 輪郭のはっきりした音作りと、象徴的な1本

布袋の代名詞といえば、黒いボディに白いラインの幾何学模様が入ったテレキャスター・タイプ、通称「TE-HOTEI」です。1985年にフェルナンデスの協力で作られ、ピックアップにはノイズが少ないEMGを搭載。模様は、本人が以前のギターに描いたラインを踏襲したものだといいます(出典:ギター・マガジンWEB「布袋寅泰の象徴的ギター 1985年製TE-HOTEI “MAIN”」)。※使用機材は時期によって異なり、ゼマイティスなども使用しています。

音の方向性として学びたいのは、「歪ませすぎない」こと。カッティングやリフの輪郭を出すには、歪みを控えめにして音の立ち上がりを残したほうが有利です。そこにディレイなどの空間系で奥行きを足す。歪みの量の考え方はオーバードライブの使い方、空間の作り方はディレイの使い方で解説しています。

⑤ ビートに「はめ込む」発想

ソロデビュー作のタイトル『GUITARHYTHM』は、ギター(GUITAR)とリズム(RHYTHM)を掛け合わせた言葉です。この名前の通り、布袋のギターは機械的に正確なビートの上でも気持ちよく鳴るように設計されています。生ドラムの揺れに寄りかかるのではなく、自分の右手でグリッドを刻むタイプのリズム感です。

これは現代の練習環境にそのまま活きる考え方です。メトロノームやリズムマシン、打ち込みのバッキングに合わせて弾いたとき、「合っている」ではなく「はまっている」と感じられるか。そこを基準に練習すると、バンドで合わせたときの安定感がまるで変わります。

聴くべき作品

  • BOØWY『MORAL』(1982)|レコードデビュー作。荒々しさの中に、切れ味のいいバッキングという後年まで続く軸がすでに見えます。
  • BOØWY「LAST GIGS」(1988年4月・東京ドーム)|バンド最後のステージ。ギター1本でリズムとリフを担う、4人編成でのギターの役割がよく分かります。
  • 布袋寅泰『GUITARHYTHM』(1988)|ソロデビュー・アルバム。打ち込みのビートとギターを組み合わせる⑤の発想を確かめられる1枚です。
  • 「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」|映画『キル・ビル』で世界に知られたインスト曲。歌がなくても、リフとリズムだけで曲が成立することを示す好例です。
  • 布袋寅泰『STRANGERS』(2015)|ロンドン移住後、海外レーベルから発表した作品。現在進行形のギターサウンドを聴くことができます。

※作品の発売形態や配信状況は変わることがあります。最新情報は布袋寅泰 公式サイトでご確認ください。

布袋寅泰に学ぶ練習ポイント3つ

① 「鳴らして、すぐ切る」を4分音符で練習する

バレーコード(例:5フレットのA)を押さえ、BPM80で1拍に1回ダウンで弾き、弾いた直後に左手の力を抜いて音を止めます。目標は、音の長さを毎回そろえること。「ジャッ・ジャッ・ジャッ・ジャッ」と4つが同じ長さで並べば合格です。地味ですが、カッティングの切れはほぼこの練習で決まります。

② 8分オールダウンと16分オルタネイトを4小節ずつ交互に

同じコードのまま、4小節は8分音符を全部ダウン、次の4小節は16分音符をダウン・アップ交互で弾きます。切り替わる瞬間にテンポが走ったり遅れたりしないかをメトロノームで確認してください。②で触れた「2種類のビートを行き来する右手」を作るための基礎練習です。

③ 「コード2拍+単音2拍」の1小節リフを自作する

1小節のうち、前半2拍はパワーコードを短く刻み、後半2拍は低音弦の単音フレーズを弾く。使う音はペンタトニックスケールの中から3〜4音で十分です。これを繰り返して「口ずさめるか」をチェックしましょう。リフ作りは、弾く技術と同時に要らない音を削る感覚を鍛えてくれます。

まとめ

布袋寅泰から学べる最大のことは、「音を止める技術が、音の存在感を作る」ということです。鋭く切るカッティング、ぶれない右手、コードと単音を混ぜたリフ、歪ませすぎない輪郭のある音——どれも速弾きとは別の、リズムギターの基礎の話です。

だからこそ、初心者の段階から取り組む価値があります。コードが押さえられるようになったら、次は「どう鳴らすか」ではなく「どこで止めるか」に意識を向けてみてください。同じコード進行が、ぐっとロックに聴こえ始めるはずです。

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