「毎日練習しているのに、上達している実感がない」——その原因の多くは、自分の演奏を「弾きながら」しか聴いていないことにあります。弾いている最中の耳は、指の動きや譜面を追うことに使われていて、音そのものを客観的に評価する余裕がありません。だからこそ、録音して聴き返すという一手間が効きます。
結論から言うと、録音練習のポイントは次の3つです。
- まずはスマホで十分。機材を買う前に、今日から始められる
- 録るのは「通し」ではなく4小節。短く区切るほど問題点が見える
- オーディオインターフェースは「必須」ではなく「次の段階」。エレキの音を細かく確認したくなってから
録音練習とは|なぜ上達が早まるのか
録音練習とは、その名のとおり自分の演奏を録音し、あとから聴き返して修正点を見つける練習方法です。プロの現場では当たり前に行われていることですが、独学の方ほど飛ばしてしまいがちな工程でもあります。
弾いている自分と、聴いている自分は別人
演奏中、あなたの意識は「次のコードは何か」「この指はどこを押さえるか」に向いています。この状態で自分の音を正確に評価するのは、運転しながら自分の運転を採点するようなもので、ほぼ不可能です。
録音して聴き返すと、演奏の負荷から解放された「聴くだけの耳」で自分の音と向き合えます。すると、弾いている最中には全く気づかなかったことが次々と聞こえてきます。
- コードチェンジの瞬間だけ音が途切れている
- ストロークの音量が、ダウンとアップで極端に違う
- 難しいフレーズの手前で、無意識にテンポが遅くなっている
- 押さえきれていない弦が、毎回同じ場所で鳴っていない
- 指がフレットや弦をこするノイズが想像以上に大きい
レッスンで生徒さんに録音を聴いてもらうと、「自分ではもっと弾けているつもりだった」という反応がとても多いです。逆に言えば、この「つもり」と「実際」のズレを埋めていく作業こそが上達だと言えます。
記録として残るから、成長が見える
もうひとつの効果が、モチベーションの維持です。ギターは上達が緩やかに進むため、日々の変化を実感しにくい楽器です。1か月前の録音を聴き返すと、自分でも驚くほど雑だったりして、今の演奏との差がはっきり分かります。「続けても意味がないのでは」と感じたときの、いちばん確実な反証になります。
録音のやり方|スマホから始める3ステップ
機材を揃えてから始めようとすると、たいてい始まりません。まずは手元のスマートフォンのボイスメモアプリで構いません。
STEP1:4小節だけ録る
曲を通して録音したくなりますが、最初はいま練習している4〜8小節だけにしてください。3分の演奏を聴き返すのは苦行ですが、10秒なら何度でも聴けます。短く区切るほど、聴くときの集中力が問題点に向きます。
このとき、メトロノームを鳴らしながら録ると効果が跳ね上がります。テンポのズレは、自分の演奏だけを聴いていても分かりにくいためです。メトロノームの使い方は別記事で詳しく解説しています。
STEP2:ギターから1〜2m離してスマホを置く
スマホをギターに近づけすぎると、音が割れて何も分からなくなります。アコースティックギターならサウンドホールの正面ではなく、少し斜め前方から。エレキギターの場合はアンプのスピーカーから1mほど離した位置が扱いやすいです。
音質にこだわる必要はありません。この段階で確認したいのは音色ではなく、リズム・音の途切れ・鳴っていない弦の3点です。スマホの録音品質でも十分に判別できます。
STEP3:チェック項目を決めて聴く
漠然と聴くと「なんか下手だな」で終わってしまい、次の練習につながりません。聴く前に、確認する項目をひとつだけ決めてください。
- 1回目:メトロノームと自分の音がズレていないか
- 2回目:コードチェンジで音が途切れていないか
- 3回目:すべての弦が鳴っているか
1回の再生でひとつだけ。これを繰り返すほうが、結果的に速く直ります。そして見つかった問題は、必ずその場で1つだけ修正して録り直す。この「録る→聴く→直す→録る」のループが、録音練習の本体です。
オーディオインターフェースの選び方と、必要になるタイミング
スマホ録音を続けていくと、いずれ「エレキの音色をちゃんと録りたい」「弾き語りを人に聴かせられる形で残したい」という段階が来ます。そこで登場するのがオーディオインターフェースです。
オーディオインターフェースとは
ギターやマイクの信号を、パソコンやスマホが扱えるデジタル信号に変換する機材です。ギター側の入力端子(Hi-Z入力)とパソコンへのUSB端子を備えており、これ1台でシールドを直接挿して録音できます。
録音以外にも、アンプシミュレーターを通した音をヘッドホンで聴きながら練習できるため、夜間の自宅練習用としても使えます。同じ用途ではヘッドホンアンプという選択肢もあり、録音までは考えていない方はそちらのほうが手軽です。
選び方の基準は3つ
- 入力数:ギターだけなら1入力、弾き語り(ギター+歌)なら2入力必要です。将来的に歌も録るなら2入力を選んでおくと買い直しを避けられます
- Hi-Z(ギター)入力の有無:エレキギターを直接挿すために必須です。多くの機種に付いていますが、購入前に必ず確認してください
- 接続端子:お使いのパソコンやスマホの端子(USB-Cなど)に合うか。変換アダプタが必要な場合もあります
価格帯としては、初めての1台は1万円台〜2万円台程度の製品が中心になります。この価格帯でも音質面で練習用として不足はなく、まずはここから始めて問題ありません。なお製品ごとの仕様や実売価格は変動しますので、購入時に最新情報をご確認ください。
練習での活かし方
録音環境が整うと、次のような練習ができるようになります。
- 重ね録り:自分でコード伴奏を録音し、それに合わせてメロディやソロを弾く。バンドがなくてもアンサンブルの練習ができます
- ゆっくり録って原速で聴く:まだ弾けないテンポの曲でも、ゆっくり正確に録音して完成形をイメージできます
- 月イチの記録:毎月1回、同じ曲を録音してフォルダに残す。半年後にまとめて聴くと成長がはっきり分かります
よくある失敗と注意点
失敗1:機材選びで止まってしまう
いちばん多いのがこれです。レビューを比較しているうちに数か月が過ぎ、結局録音していない。繰り返しになりますが、スマホで今日録るほうが、来月いい機材で録るより価値があります。
失敗2:うまく弾けるまで録音しない
「まだ人に聴かせられるレベルじゃないから」と先延ばしにするのは、体重を測らずにダイエットをするようなものです。録音は成果発表ではなく測定です。うまく弾けていない状態こそ、録る意味があります。
失敗3:聴いて落ち込んで終わる
初めて自分の演奏を録音すると、想像よりずっと拙く聞こえて落ち込む方が多いです。これは全員が通る道で、耳が演奏より先に育っている証拠でもあります。落ち込むのではなく、「では最初に直すのはどこか」と1点だけ決めてください。録音は評価するためではなく、次の一手を決めるために使います。
失敗4:全部を一度に直そうとする
録音を聴くと課題が10個くらい見つかりますが、同時に直せるのはせいぜい1つです。優先順位に迷ったら、リズム → 音が鳴っているか → 音色の順で取り組んでください。リズムが崩れていると、他をどれだけ直しても演奏としてまとまりません。
注意:録音した音源の公開について
既存の楽曲を演奏した録音をSNSや動画サイトに公開する場合、権利の扱いが関わってきます。練習用に自分で聴く分には問題ありませんが、公開する際は各サービスの規約を確認してください。
よくある質問(FAQ)
Q1. どのくらいの頻度で録音すればいいですか?
毎日やる必要はありません。「新しい曲やフレーズに取りかかったとき」と「もう弾けたと思ったとき」の2回が特に効果的です。加えて、月に1回同じ曲を録って記録に残すと、長期的な成長が見えるようになります。
Q2. スマホの録音だと音が悪くて判断できないのでは?
音色の細かな違いを判断するには不向きですが、リズムのズレ・音の途切れ・鳴っていない弦は十分に分かります。初心者の方が最初に直すべき課題はほぼこの3つに集中しているため、スマホで問題ありません。むしろ音質が良すぎないほうが、リズムに意識が向きやすい面もあります。
Q3. 自分の演奏を聴くのがつらいのですが、続けるコツはありますか?
「良かった点を必ず1つ見つけてから、直す点を1つ挙げる」というルールにすると続けやすくなります。また、録音の長さを10秒程度に抑えるのも有効です。つらさの大半は「長い時間、下手な演奏を聴き続けること」から来ているためです。
まとめ
録音練習は、追加の費用がほぼゼロで、練習の質をもっとも大きく変えられる方法のひとつです。ポイントを振り返ります。
- まずはスマホのボイスメモで、今日から始める
- 録るのは4〜8小節。メトロノームを一緒に鳴らす
- 聴くときは確認項目を1つに絞り、1つだけ直して録り直す
- オーディオインターフェースは、音色まで詰めたくなってからで十分
- 録音は評価ではなく測定。うまく弾けない段階こそ録る意味がある
とはいえ、録音を聴いて「何かが違うのは分かるけれど、原因が分からない」という壁にぶつかることもあります。問題点を見つける耳と、それを直す手順は別のスキルだからです。当教室のレッスンでも、生徒さんの演奏を録音して一緒に聴きながら、どこをどう直せばよいかを具体的にお伝えしています。
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